2022年11月29日火曜日

NASA アルテミス計画ロケットエンジンは3Dプリント部品でコスト 35 % の削減に成功

米国発:NASA(米航空宇宙局)が、早ければ 2024 年にも月へ有人着陸船を送り込む「アルテミス計画」で使用するロケットには、重要部材に金属3Dプリントで製造されたパーツが採用されている。
たとえば、心臓部とも言える推進ロケットエンジンを手掛ける Aerojet Rocketdyne は4基の RS-25 ロケットエンジン(もとはスペースシャトルのメインエンジンとして開発されたもの)と高圧タンクを供給するが、その部材には金属3Dプリントで製造されたパーツが多用されている。
ロケットエンジン用の部材は、超高温の過酷な環境にも耐えられることが要求される。同社によれば、3Dプリントによるロケットエンジン部材のほとんどで、レーザー粉末床溶融結合方式(LPBF)の金属3Dプリントを中心にもちいたという。同3Dプリント技術により、ロケットエンジンの製造コストは全体で 35 % 削減されたと同社は述べる。
一方、同じく米国の航空宇宙・軍需企業の Northrop Grumman は、アルテミスロケットを打ち上げ後2分間、推進させるために設計されたブースター製造を手掛ける。こちらのブースターも RS-25 エンジンと同様、積層造形(AM)技術の恩恵を受けているが、ブースター製造プロセスに関する情報は明らかにされていない。 NASA はアルテミス計画により、人類が月面においても活動できる可能性の道を開く。
アルテミス第1弾ミッションが成功すれば、次期ミッション「アルテミス II」が早ければ  2024 年中にも実施され、4人の宇宙飛行士が搭乗する予定だ。また、月プロジェクト関連では、セントラルフロリダ大学(オーランド)が、月のレゴリス(月面上を覆っている薄い塵状の表土)から3Dプリントでレンガを作ることに成功している。

2022年10月30日日曜日

「蚊取り線香」化する新しい3Dプリント素材が誕生

ドイツ発:マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク、ライプニッツ・ポリマー研究所などの研究者からなるグループは、カなどの虫除け剤として使用される薬剤で表面加工した3Dプリント素材を世界で初めて開発した。
カなどの虫除けとして一般的に使用されているのは DEET と呼ばれるジエチルトルアミド薬剤だが、特有の臭いと相当量を使用しないと効果が持続しないこと、それもせいぜい数時間どまりなのが欠点だった(人によっては、アレルギーや肌荒れを起こすリスクもある)。
同グループは、こうした欠点のある DEET ではない別系統の忌避剤IR3535® (ブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル)を使用した。こちらは DEETとは異なり無臭無色の虫除け薬になる。これをポリマーと混合させ、3Dプリント可能にした。3Dプリントで適切な形状に加工することでじゅうぶんな表面積を確保し、埋め込まれた忌避剤を周囲の空気に安定的に放出することができるという。
同グループは、リングのような試作品を3Dプリントで出力した。このリングじたいが薬物送達システム(DDS)として機能し、言わば蚊取り線香のような効果がある。また、その忌避効果は数日間は持続するという。

2022年8月24日水曜日

米大学が世界で初めてアイス3Dプリントに成功

米国発:カーネギーメロン大学(ペンシルベニア州)の工学研究者グループはこのほど、氷が作り出す樹状微細構造を3Dプリントで再現することに世界で初めて成功したと発表した。従来の3Dプリント素材にはサーモプラスチックや金属などがあるが、水を素材として用いる今回のようなケースは極めて珍しい。
同グループによると、-35℃に冷却した造形プラットフォームに水を滴下して急速冷凍させて造形する。試行錯誤の結果、最適なプリント軌道とノズル移動を割り出し、繰り返し再現可能な樹状パターンのプリントに成功したという。試作品としてツリー、プロペラ、タコなどのマイクロオブジェクトを作成した。
このアイス3Dプリントは、より複雑な最終部品向けの犠牲テンプレートとして考案された。同グループは、これを ❝インサイドアウト❞ プリンティングまたはリバースモールディングと呼んでいる。具体的には、まず3Dプリント構造体の作成後、レジンなどの3Dプリント素材を冷却した液体やゲルに浸す。固まったら、素材内部の氷を溶かすか蒸発させれば、簡単に部品から除去できる。アイス3Dプリント方式の利点は成形後のテンプレート除去が容易であり、内部構造の表面は滑らかに仕上がり、精度も高い。
今回開発されたアイス3Dプリント技術は生体工学、高度製造システム、およびアートなどの分野での実用化が見込まれている。

2022年7月7日木曜日

世界初のフル3Dプリントプールがお目見え

米国発:プール製作の San Juan Pools(フロリダ州)はこのほど、世界初のフル3Dプリントによるグラスファイバー製プールを発表した。
San Juan Pools は 1963 年にワシントン州シアトルで創業した3代続く同族経営会社で、ボート船体の建造術を応用してプール製作を手掛ける。最先端技術を採り入れたプール作りを追求する同社が手掛けた最新型プールが、このフル3Dプリントプールだ。
San Juan Pools が新製品製作で労力、時間、生産コストを削減する方法を探したところ、同じくフロリダに拠点を置き、特注の大型造形用3Dプリンターベンダーの Alpha Additive を知り、同社に掛け合って専用の3Dプリンターを提供してもらったという。特殊なビニルエーテル樹脂とグラスファイバーを FDM 3Dプリンターと同様な手法でプリントアウトして完成したのが、世界初のフル3Dプリントプールだ。
3Dプリントプール「 Baja Beach[バハビーチ]」モデルは縦横 12 × 25フィート(約3.6 × 7.6m)、深さ3フィート(約 0.9 m)。長さ12フィートのアクリルグラスのファサードウィンドウがあり、最奥部には温水が出るジャグジーセクションも付属する。プール主要部が浅めに作られて泳ぎには向かないが、子どもが水遊びをしたり、大人が水の中でクールダウンするのに最適なプールとなっている。
グラスファイバーで船体を製造する従来の工法では、有毒な化学物質やリサイクル不能な素材の使用が地球の生態系に重い負荷を与えていた。この点でも、3Dプリントプールは環境負荷が軽くメリットがある。また、従来工法は多くの労働者を必要とし、完成までに数か月かかるという問題があったが、3Dプリント方式ではサスティナブルな素材の使用と少ない労力、そして完成までわずか数日で済む。
フル3Dプリントのグラスファイバー製プール各種の価格は、約 17,000 ~ 38,000 米ドル。


2022年6月20日月曜日

世界で初めて3Dバイオプリントでヒトの肺の足場材開発に成功

米国発: United Therapeutics3D Systems(NYSE:DDD)はこのほど、両社が共同で研究開発を進めてきた3Dバイオプリントによるヒトの肺の足場材開発に成功したと発表した。この足場材は、対面方式で開催された LIFE ITSELF カンファレンス(会期5/31~6/3、サンディエゴ)でお披露目された。動物実験済みで、将来的には患者自身の幹細胞を使用して作成される計画。
自身の幹細胞で移植可能な肺が作成できれば拒絶反応のリスクも大幅に減らすことができる。 この3Dプリント足場材は、過去最高の 44 兆個のパーツ( 44 兆ボクセル)で構成され、4,000 km の肺毛細血管と2 億個の肺胞を有する。これまで3Dプリントで作成された最も複雑な構造体になるという。
同開発グループによれば、今回開発された Print to Perfusion と呼ばれるフォトポリマーベースのバイオプリント技術では、こうしたドナー臓器を3週間程度で作成することができるとしている。ガス交換機能も正常に働くことも実証されており、5年以内の臨床試験を目指す。
ドナー臓器の需要は確実に増えている。米保健資源事業局によると、2021 年に米国内で肺移植を受けた患者は 2,524 人で、2022 年6月3 日現在、ドナーからの臓器提供待ちの患者は 1,075 人いる。一方、毎年 15 万人以上の米国人が肺の疾病で亡くなっており、移植待ち患者も多く含まれている。

2022年5月29日日曜日

独 Daimler が、バス事業者向けに「3Dプリント部品内製化システム」を発表

米国/ドイツ発:バス部品製造の Daimler Buses がこのほど発表したプレスリリースによれば、バス製造大手 Mercredes-Benz とそのブランド Setra (ゼトラ)で、車両部品の3Dプリントの内製化を可能にするシステムがまもなく提供されると明らかにされた。
Daimler Buses は 2017 年時点で、すでにバス車両用の 780 以上の交換部品を3Dプリントで製造している。昨年は、顧客が3Dプリント部品を容易に入手可能にするための、コンテナ型モバイル3Dプリントセンターも開発した。今後、輸送事業者が必要なのは Mercredes-Benz バスの予備部品をプリントするための公認3Dプリンター、ワンストップ登録、および必要なパーツのライセンスと必要数量の手続きのみとなる。このようにして、同社製バス車両を保有するすべての企業は、それぞれが「ミニ部品工場」の所有、および部品供給の一元化が実現できるようになる、としている。
システム全体の管理には、同社が開発したデジタルサービスブランド「 OMNIplus 」を活用する。 同社によると、現時点で 100 以上の部品と 1,500 以上のコンポーネントが利用可能で、今後数か月で利用可能点数が増えると見込む。部品メーカー側にとっては、この新しいアプリケーションサービスを活用すればサプライチェーン絡みの問題を抑えつつ、さらに迅速に顧客のもとへ部品を届けることが可能となり、省コスト化も期待できるという。

2022年4月16日土曜日

使用済み3Dプリント試作品がボディサーフィン用ハンドプレーンへ❝変身❞

米国/アルゼンチン発:米国とアルゼンチンに本拠を置くデザイン事務所 Uido はこのほど、自社で出たプラスチックごみをリサイクルしたハンドプレーンの3Dプリント製作を始めた。ハンドプレーンは、身体だけで波乗りをする「ボディサーフィン」に使用される、手の下に滑り込ませて使用する補助器具。
プロダクトデザインの提案で欠かせないのが3Dプリントの試作品だが、サイズの異なる試作品が大量のプラスチックごみとなり、これが悩みのタネだった。そこで同事務所は、使用済み3Dプリント試作品をグラインダーで粉砕し、パウダー状にしたものを厚さ 6 mm の板状に加工。こうしてリサイクルされた3Dプリントのハンドプレーンは、異なる色のプラスチック片が集まったカラフルなものに仕上がった。
同製作チームに言わせれば、「ある人から出たごみが、ほかの人のハンドプレーンになった」

2022年3月30日水曜日

ヒトの精巣細胞の3Dバイオプリントに世界で初めて成功

カナダ発:ブリティッシュコロンビア大学の研究グループはこのほど、ヒトの精巣細胞の3Dバイオプリントに世界で初めて成功した。
同グループによると、バイオプリントから 12 日後も人工細胞は生き残り、一部は特異性細胞へと進化した。そして将来的に、精子の生産能力を持たせるうえで期待できる兆候も見られたという。機能的で生存可能な男性生殖細胞のバイオプリントにはまだ程遠いが、男性不妊に対して医療的解決策を提示できる可能性を示す、重要なステップと言えるだろう。
不妊症の研究を含め、医療用 AM(積層造形)の進歩は驚くべき進化を続けている。草創期のプロジェクトでは 2017 年、不妊のマウスにバイオプリントした人工卵巣を移植し、健康体の子供を産んだノースウェスタン大学マコーミック工学院の成功例がある。今回のバイオプリンティングは男性不妊の解決を目指したもので、将来的には男女両性における生殖機能問題に医師が対応可能になる技術だ。

2022年3月11日金曜日

女性支援団体が、3Dプリント業界にも男女格差が存在することを示すリポートを発表

米国コロラド州発:3Dプリント業界における女性の地位向上を目指す支援団体「 Women in 3D Printing(WI3DP) 」は、「国際女性デー」の3月8日に合わせて最新リポートを発表した(同リポートは無償で自由にダウンロードして読める)。
WI3DP は 2014 年に設立された。同リポートは3Dプリント業界の賃金の男女格差について、他の業界と同じく、依然として賃金格差問題は解消されていないと指摘した。WI3DP によれば、3Dプリント関連産業で働く女性の割合はわずかに 13%、女性が経営トップである企業も 11% に過ぎないという。
同レポート最新版は、同団体による DEI(多様性、公平性、包括性)イニシアティブの一環。6つのセクションからなり、賃金格差の存在について詳細に説明する。たとえば 2020 ~ 2021 年、昇進する女性の数は増えたものの、賃金に対する満足度は男性と比べて低いという。この問題に関して、賃金支給に関する透明性を高めるなど、賃金格差是正に向けた一連の提言を行っている。
男女の賃金格差は国によって差はあるものの、世界中にはびこっている。 実際、ピューリサーチセンターの報告では、2020 年のフルタイムおよびパートタイム双方の労働者の時間当たり収入の中央値について、女性は男性が得た収入の 84% 相当額に過ぎなかった。
これは言い換えると、2020 年中に男性が稼いだ同額の賃金を女性が稼ぐには、さらに42 日間を追加して働く必要がある、ということだ。加えて、有色人種または障がい者の場合、あるいは社会的および経済的地位や親の地位などを含むインターセクショナリティ(交差性)要素を有する女性は、さらに条件が悪くなる。これらは3Dプリント関連産業も例外ではなく、そこで働く女性の多くが直面する問題でもある。

2022年2月21日月曜日

3Dプリントファサードを持つ高級ブティックがお目見えへ

オランダ発:ロッテルダムに本拠を置く建築デザイン事務所 studio RAP は、アムステルダムでも人気のショッピングストリートにある高級ブティックのファサードデザインを3Dプリントで手掛けている。
施工中のファサード全体が、セラミック3Dプリントによって出力される。同ファサードは近日中に、建物のオリジナルファサードを模した3Dプリントのセラミックタイルや赤レンガで彩られ、ショッピングストリートの外観コンセプトとも完璧に一致する新デザインとして、2022 年夏にお目見えする。
積層造形(AF)技術の活用で、歴史に残る名建築を刺激的な手法で再解釈することも可能となる。このファサード建造にはアルゴリズム・デザインが採用され、KUKA 社製大型3Dプリンターによって、studio RAP 社内で製造されている。
3Dプリントファサードはまばゆいパールホワイトの約 40 × 20 cm のセラミックタイル製で、ニットの服を思わせる起伏と細かいテクスチュアが特徴。ブティックの入る地上階ウィンドウはセットバックされ、店舗フロアには、高さ 4.5 mの3本の柱とアーキトレーブが設置される。
オリジナルの十字積みを模したファサード上部の3トーンの赤レンガ部分も3Dプリント製で、レーザーカッティングされたステンレス製カセットに接着される。

2022年2月5日土曜日

米 Azure Printed House がエコな3Dプリント住宅専用新工場を稼働

米国カリフォルニア州発:3Dプリント住宅ベンダー Azure Printed Homes はこのほど、カリフォルニア州カルバーシティ市に建設した新工場の操業を開始したと発表した。
同工場の延床面積は約 1,400 ㎡。新工場ではリサイクルプラスチック建材のみ使用した、特注の住宅建設用3Dプリンターで住宅やガーデンスタジオといった大型建造物を出力する。環境に配慮した製造プロセスによる建設工法の変革を目指す。
同社は、最終的に海洋へ流出する埋め立て廃棄物の総量を最小限に抑えることを目標に掲げている。同社によれば、世界最大の原材料消費部門は建設であり、世界の総炭素排出量の約 20 % はこの部門から排出されているという。
同社技術の活用により、建設工期は従来工法より 70 % 短縮され、建設コストも 30 % の削減が可能だとしている。3Dプリント建設工法の利点を最大限に活用するいっぽう、わずか 12 時間という短時間で全工程が完了する新たな設計施工方式も創出し、生産効率を向上させている。


2022年1月7日金曜日

Formlabs が同社最速の SLA 3Dプリンター2製品を発売

米国ネバダ州: SLA 3Dプリンターベンダーの Formlabs Inc. は、世界最大級の家電見本市 CES 2022(2022年1月6~8日)で新型3Dプリンター「 Form 3+ 」および「 Form 3B + 」を発表した。公式リリースによると、2製品とも、造形スピードが同社最速の3Dプリンターだという。同社は2製品を1月5日付で販売を開始した
2製品は2019 年発売の同社フラッグシップモデル「 Form 3 」および「 Form 3B 」のアップグレード版で、内蔵されている中核技術「 Low Force Stereolithography (LFS™)」も3年かけて全面的に改良された。LFS は、レーザーとミラーを包含した光プロセスユニット(LPU)を使用し、造形の微細さと高速度を両立しつつ、液体樹脂を等方性を持つパーツに硬化させる。この全面的改良の結果、新製品ではレーザー照射が最適化され、従来比で最大 40 % の高速化を実現したという。
両モデルには、特許技術の「クイックリリーステクノロジー」および「ビルドプラットフォーム2」が実装されている。両技術の実装により、従来製品では製品とサポート材との分離に難があったプリント後処理の問題も、ハンドル付きの屈曲可能なプラットフォーム素材を採用することで安全かつ簡単に離脱させることが可能になった。
また同社は、静電気放電(ESD)を防止する静電気散逸性素材でできた「ESD レジン」も発売した。同社が ESD 製品を手掛けるのは今回が初めて。同社は SLA 3Dプリンター用 ESD レジンをラインアップに追加することで、電子機器、自動車、航空機製造といったシビアな静電気対策が要求される業界への売り込みをかける。とくに半導体関連分野において、極高精度で手頃な価格で導入可能な製品をリリースすることで、半導体不足に起因する苦境の緩和に貢献したいとしている。