2021年7月7日水曜日

究極の3Dプリンター「量子3Dプリンター」の未来を語る気鋭の女性研究者

英国発:オックスフォード大学ウォルソンカレッジのフェロー研究員で理論物理学者の Chiara Marletto 教授は、5月に刊行した著書( The Science of Can and Can’t)において、「ユニヴァーサル・コンストラクター」という概念に触れている。言わば「究極の3Dプリンター」とでも呼ぶべきこの「ユニヴァーサル・コンストラクター」とは何か。SF 映画『スタートレック』シリーズに登場する、原子レベルで万物を生成可能な「レプリケーター」のようなマシンなのだろうか。

ユニヴァーサル・コンストラクターとは、物理学者で数学者のジョン・フォン・ノイマンが1950年代、ユニヴァーサル・チューリング・マシン(ユニヴァーサル・コンピュータ)という概念の一般化のために提唱した理論モデルのこと。

ユニヴァーサル・コンピュータとは、物理的に可能なあらゆる計算の実行がプログラム可能なマシンです」と Marletto 氏は説明する。「対してユニヴァーサル・コンストラクターとは、計算だけでなく、物理的に可能なあらゆる変換を行うことができるマシンになります。とくにフォン・ノイマンが考案したのは、自己増殖可能な細胞の動きを模倣するマシンでした」

ユニヴァーサル・コンストラクターと3Dプリンターと共通する要素は、そのままユニヴァーサル・コンストラクターの決定的特徴とも重なる。すなわち初期の RepRap 3Dプリンティング運動にインスピレーションを与えた自己複製能力であり、ハイエンドな産業向け3Dプリンターを定義付ける、新しい3Dプリンター用パーツを作る能力になる。

また3Dプリンターの進化に伴う実用的問題として、プロセスシミュレーション(およびモニタリング)を考慮する必要性がある。工業用3Dプリンターは膨大な量のデジタルデータを生成するため、その高速処理にはますます高性能なコンピュータが必要になってくる。Marletto 教授は、この膨大な演算処理こそ、将来のユニヴァーサル量子コンピュータが処理する最適なタスクだと指摘する。

ユニヴァーサル・コンストラクター技術が実用化された暁には、量子ユニヴァーサル・コンピュータを使ってデータを管理し、コンストラクターが機能するために必要な計算が実行できるようになります」 3Dプリント技術の進化はまだ始まったばかりで、同教授の言う「ユニヴァーサル・コンストラクター」理論の完全な理解にも程遠いものの、探究すべき要素には共通項が多く含まれている、ということは明らかだ。