2014年2月24日月曜日

途上国の研究者に 3Dプリントされた実験道具を ―― ミシガン大学の取り組み

従来、科学実験に用いる道具は非常に高価で、発展途上国の科学者たちにとっては文字通り高嶺の花だった。だが、安価な 3Dプリンターを使い、現地で調達可能な材料で製作できれば、わずかな資金でも正規製品と遜色なく機能する「代替品」は入手可能となる。途上国に暮らす科学者にとって、これは大幅なコスト削減も意味する。
現場のニーズに見合う安価で持続可能な解決策は、このへんにあるのではないか ―― 米国ミシガン州立大学の「開かれた持続可能テクノロジー研究所( OSTL )」所長 Joshua Pearce 氏は、Physics World 誌に寄稿した記事でこう主張する。
このような手法は、従来型技術とは異なる「もう1つの技術」、つまり「適正な技術( Appropriate[ Alternative ] Technology,  AT )」と呼ばれる。3Dプリンター時代到来により、独占価格を設定した製品から儲けを得る方法に頼っていたメーカー側も、すでにオープンソースによる代替品の存在する現在は利ざやが減るか、技術革新に励んで経済的存続を図るかのいずれかの道を取らざるを得ない。
「たとえば試験管を立てるマグネティック ラックひとつ取っても、ラック本体を買うのではなく、現地の研究者が自ら製作して市販のマグネットを買って済めば、RepRap のように自家複製可能な 3Dプリンターを買うコストはかんたんに回収できる」と Pearce 氏。RepRap は組立済みモデルが約 1,000米ドル、ユーザーが組み立てる場合ならパーツ代は 500ドルもかからない。
貧困対策としての「適正な技術」は、1970年代の世界保健機関( WHO )の活動に端を発する。同機関は当時、途上国の村人に対し、揚水ポンプと農機具を村人自身の手で作リ出すための援助活動を展開していた。この試みはうまくいってはいたものの、一度に対応可能なのは1つの村に限られる。「ほぼ同じ問題を解決するために、同じ試みを一から繰り返していた。信じがたい時間の無駄だった。ところが今や市販の 3Dプリンターの価格も手頃になり、世界規模に広がったインターネット網に加え、オープンソース運動は多くの支持者を得ている。これらのおかげでますます多くの人々が、あるデザインを '無料' で使用したり、複製したり改変したりすることが可能となり、そうやって改良されたモデルをまたオンライン上で共有することも可能になった」と Pearce 氏は言う。
また Pearce 氏はこの「適正な技術」実践の場として、いくつかの取り組みを挙げている。たとえば Appropedia は、持続可能な技術開発および貧困問題軽減に向けた知識の共有および国際協働のためのオンライン コミュニティ。また、実験器具の組み立てに関する指南もオンライン上で公開され、誰もが自由に手を入れたり使用したりできる。そんな取り組みとしては Tekla LabsOpenLabTools などのコミュニティがあり、また 3Dデータを一般公開して配布する Thingiverse のようなホストサイトもすでに存在する。OpenScad はフリーのオンライン プログラムで、ユーザーは、すでに存在する実験器具の 3Dデザインデータをそれぞれの現場のニーズに応じて自由に改変することができる。
たとえ理論に秀でた科学者があまたいるような途上国でも、実験道具の不足ゆえに、先進国に富をもたらす中核とも言える応用科学がおざなりにされているのが現状だ。
発展途上国に対する慈善活動を行なっている英国の団体 Practical Action の、Practical Answers もそんな知識共有サービス。代表者 Rob Cartridge 氏は、持続可能なやり方で真に価値ある生き方を送れるようにするため、テクノロジーを取捨選択して使用する権利を人々に与えるという点において、オープンソースの概念はきわめて重要だと説く。
「ジンバブエにある揚水ポンプ、あるいはペルーにある地震や地滑りを監視するモニターとして設計されたジャイロスコープを取り上げようが、大事なのは1つだけ。このような『適正な技術』は、最貧困地域に住む人々を埒外に放り出してしまう知的財産権やサブスクリプションといった傘に隠れてはいない、ということです」。