2014年3月1日土曜日

重い先天性心臓疾患を持つ赤ちゃんを救った3Dプリントの心臓モデル

米国ケンタッキー州ルイヴィルのコセア子ども病院はこのほど、3Dプリンターで出力した3次元心臓モデルを使い、重い先天性心臓疾患を持つミャンマー移民の男の赤ちゃんの生命を救った。

ルイヴィル大学の小児外科医 Erie Austin 氏ら執刀医チームによると、生後 14か月の Roland Lian Cung Bawi ちゃんは、生まれつき心臓大動脈や肺動脈の奇形および心室に穴が開くなど複数の疾患を持って生まれた。Austin 氏は今回の手術に当たり、2次元 CTスキャンデータのみに基づき手術方法を決定する従来のやり方では困難だと判断、同大学 J. B. スピード記念工学部( J.B. Speed School of Engineering )に支援を求め、同工学部の所有する MakerBot 製3Dプリンターを使用して Bawl ちゃんの3次元心臓モデルを製作した。手術は 2月10日に行われ、成功した。

同学部付属のラピッドプロトタイピング研究所長 Tim Gornet 氏によれば、同研究所ではこれ以前にも外科手術用立体モデル製作に3Dプリンターが活用されてきたとし、外科医と協働して腫瘍や脊髄欠損などの手術用に3次元モデルを提供してきたという。今回のように、3Dプリント出力された3次元モデルを使用した心臓外科手術の成功例としては、ケンタッキー州初だという。

今回の心臓手術では2次元 CT画像データから、実際の倍の大きさに拡大した心臓の3次元モデルを製作し、これにより執刀医チームは比較的短時間で、最小限の切開にとどめることが可能になった。Roland ちゃんは術後の回復もよく、完全回復するだろうと Austin 医師は語った。

もちろん、現時点ではまだ3Dプリンティングは医師が直接関与する検査の完全な代用にはならず、患者体内の患部が目視で確認できる程度のものだ。医療現場における画像技術はここ数十年で飛躍的発展を遂げたものの、とりわけ脳内部などは組織のモデル作成が難しいとされる。だが、実物より大きな3次元モデルを安価に短時間で製作できれば、高額かつ不要な試験開腹の回数も減少し、患者は短時間でダメージから回復可能になるかもしれない。

通常、開腹手術は腹腔鏡手術と比べて時間がかかり、患者への負担も大きい。3Dプリントアウトした立体モデルの精度がさらに向上すれば、このような負担の大きな侵襲的手術の必要も減り、3Dプリンティング技術開発にかかるコストや困難さも元が取れる時が来るだろう。