2014年8月3日日曜日

医療用3次元 CT スキャンと3Dプリンターで古楽器を復元

米国発:マサチューセッツ州イーストロングメドウに住む生殖内分泌学者 Robert Howe 博士は、かねてから医療用 CT スキャンの持つ人体構造の正確な3次元再現力に注目してきた。今、Howe 博士が着目しているのは、この正確な3次元 CT スキャン技術を繊細な古楽器の研究に応用できないか、ということだ。

コネティカット大学で音楽理論及び音楽史の博士課程にも在籍していた Howe 博士は昨年、同大学で音楽理論を教える Richard Bass 教授にこのアイディアを伝え、Bass 教授はそれを同大学先端3Dイメージング責任者でエンジニアの Sina Shahbazmohamadi 氏にも伝えた。3名は CT スキャンと3Dプリントを組み合わせたこの古楽器復元技術を共同開発し、今週にも特許を申請するという。

CT スキャンは、分解不可能な物品の内部構造調査にはまさにうってつけの方法だ。たとえば 18世紀に製作されたイングリッシュホルンも、CT スキャンの結果、従来専門家が考えていた以上に複雑な内径や木製ピンなどを持っていることが明らかになった。従来のX線検査では同じ材料でできている小部品までは特定できずにいた。

Shahbazmohamadi 氏は、金属と木でできた部分の同時スキャンを可能にする画期的技術を開発した。これにより、Howe 博士らのチームは、19世紀にアドルフ・サックスが製作した最初のサクソフォンのマウスピースの正確な3次元レプリカ製作にも成功した。

「サックスの製作したマウスピースは世界に3つしか現存していない」と Howe 博士。

CT スキャンなど、非接触式の調査方法がなかった頃は、金属製カリパス等を用いて計測していたが、この方法では楽器本体に傷がついてしまう。計測結果に基づいて熟練職人が手作業で復元するのだが、非常に時間がかかり、またコストも高くつくやり方だった。現代のマウスピースで代用した場合、低コストではあるが、いざ演奏してみると、とても満足の行く結果は得られなかった。

ニューヨーク大学で教鞭を執るサックス奏者 Paul Cohen 氏は、Howe 博士らの試みは、数百年前に響いた音楽が、どのような音響を意図してしたのかを理解する上で大いに参考になるはずだと言う。「アドルフ・サックスがマウスピース製作当時に用いた寸法を再現できれば、この楽器に対する理解は根底から変わるだろう」。

Howe 博士らコネティカット大学チームはサックスの製作したオリジナルのマウスピースを CT スキャンし、その測定結果に基き3Dプリンターで樹脂製レプリカを作成した。また同チームはバスサックス( Bフラット )、ソプラノサックス( Eフラット )用マウスピースも合わせて復元した。

「これはすばらしい。単価も 18ドルしかかかっていないしね」と Howe 博士。「この技術は極めて正確、という段階にはまだ達していないが、非常に安価だ」。

コネティカット大学チームが開発したこの技術はいずれあらゆる楽器の複製、ないし破損部分の修繕に役立つだろう。コンピューター技術の進化により、オリジナル楽器に存在する欠陥までも治せるようになるだろう、とShahbazmohamadi 氏は言う。

Howe 博士はすでにそんな楽器を所有している。1740年製のリコーダーだ。楽器の一部は3Dプリンターで復元された部品が使用されている。

「楽器に限らず、採寸して復元するのが困難な製品が復元できるというこの技術の持つ能力は、そのうち爆発的に普及すると思う」。

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