2014年1月19日日曜日

3Dプリントした義肢をウガンダの子供たちに ―― トロント大学の試み

コンシューマー向け 3Dプリンターは今や銃からキャンディーまで作れるが、トロント大学チームが取り組んでいるのは、手足を失ったウガンダの子供たちの人生を、3Dプリントした義肢を提供して変えることはできないか、という試みだ。
「我々は、ともすれば '動く' という能力を当たり前のように考えがちです。ですが発展途上国では、切断手術を受けたり先天性の病気により、自分たちだけでは体を自由に動かせない子供たちが大勢います。世界保健機関( WHO )によると、途上国では義肢の技術者が現在約4万人も不足しています。今後 15年間、技術者養成に取り組んだとしても、送り出せる技術者は18,000人に過ぎません」と、同大学情報学部教授 Matto Ratto 氏は指摘する。
Ratto 教授のチームはこの問題解決のため、コンシューマー向け 3Dプリントおよび 3Dスキャン技術を活用している。この2つの技術があれば義肢製作も容易になるから、それだけ義肢技術者の需要も減らせるという。
「まず残った部分の 3Dスキャンを取り、それを 3Dモデルデータ化して義肢を支える樹脂製の受け口を 3Dプリンターで出力することを目指します」と、同教授は取材に対して語った。
通常、義肢に合う受け口製作には高い技術を有する専門技術者が必要で、しかも製作に数日はかかり、人為的ミスの入り込む可能性も高い。だが、トロント大学チームは 義肢の受け口を3Dプリントすることで、高度な専門技術がなくても製作可能で、製作に要する時間も劇的に減らしたいと考えている。3Dプリント化すれば製作時間は7-10時間に短縮され、また一貫して安定した品質で出力可能だという。
トロント大学チームはウガンダの NGO、Comprehensive Rehabilitation Services in Uganda CoRSU )病院でプロジェクトを試行する。最終的には 3Dスキャニングおよび 3Dプリントをすべて現地で実施する予定。

2014年1月18日土曜日

Photoshop CC が 3Dプリンターに対応

Adobe は 16日、同社の「Adobe Creative Cloud」経由で有償提供されている「Photoshop CC」に、「3Dプリント」を含む新機能を同日付一斉アップデート( Adobe Photoshop 14.2 )で配布した。今回のアップデートにより、同製品ユーザーはメニューから 3Dデータを構築、修正、プレビューできるようになり、対応する 3Dプリンターに直接、3Dデータを送信することができるようになる。

「3Dプリント」機能にはこの他に 3Dメッシュの自動修復や、造形中のオブジェクトを安定させる上で重要な支持体構造も自動生成され意図したとおりの造形が可能になるという。

「今回、新たに追加された 3Dプリント機能によって、従来勘に頼りがちだった 3Dモデル生成作業が誰でも確実に行えるようになった」と、Adobe の広報担当 Winston Hendrickson 氏。「これまでは 3Dモデリングツールで生成した 3Dデータが、実際にプリンターからそのまま高品質の造形物として出力されるとは限らなかったが、これからは '3Dプリントを設定' メニューから簡単にプリントアウトできる」。

3Dプリント機能はローカル接続された 3Dプリンター( 対応機種は「MakerBot Replicator」シリーズ、「3D Systems Cube」シリーズなど )に対応し、また 3Dプリンターを所有していなくてもオンライン 3Dプリントサービスの Shapeways や Sketchfab にも直接 3Dデータを送信して完成品を受け取ることもできる。

今回のアップデートでは 3Dプリントの他に 20の新機能が追加され、その中には画像の特定部分の遠近感を調整可能な「遠近法ワープ」、外部ファイルにリンクして容易にレイヤーオブジェクトの更新ができる「スマートオブジェクトのリンク」などが含まれる。

2014年1月13日月曜日

層間解像度 100nm のデスクトップ光造形 3Dプリンターが登場

2013年に設立されたばかりの 3Dプリンターのベンチャー、Old World Laboratories ( OWL )は現地時間 1月 8日、2000-5000米ドル価格帯のデスクトップ型 3Dプリンターとしては世界初となる層間解像度 100nm という超高精細な光造形が可能な「OWL Nano」のリリースを発表した。

「OWL Nano は従来、非常に高価格で大型の 3Dプリンターでなければ得られなかった正確で信頼性の高い造形出力が可能だ。精密な小型部品および金型を少量生産することを望むメイカーすべてにとって、OWL Nano はまさに理想的なツール。頭に思い描いたとおりに、寸分違わず造形できる」と、同社の Nicholas Liverman 氏。デザインおよび生産現場で極めて正確かつ強力なソリューションを求める個人や団体にとって、3Dプリント テクノロジーはさらに身近なものになる」。

「OWL Nano」は、光造形タイプの従来機種ではミラーで反射させていたレーザー光をできる限り造形物に近接させて直接照射することにより、従来機に比べて層間解像度 100分の1というきわめて高精度の積層造形を可能にした。ミラーレスのため、光線の歪みも抑えられている。このためレーザー光が、直上の造形物に対して正確な垂直面で当たり、従来機種に比べて完成品のバラツキがないという。同製品の製造組み立ては、ヴァージニア州にある自社工場で行われる。

「OWL Nano」の主要な仕様は以下の通り。

出力方式:   
光造形 ( SLA )
層間解像度:
100 ナノメートル
最大造形サイズ:
288 in3 ( 6L x 6W x 8H in )

4,500,000 mm3 ( 150L x 150W x 200H mm ) 
重量:
45 lbs( 約 20kg )
電源:
1.4 A, 120 V
造形温度:
72 – 77 F( 22-25°C )
使用可能素材:
アクリル樹脂、フォトポリマー樹脂
3Dプリント ソフトウェア:
Netfabb製品に同梱 )
ファームウェア:

サポート OS:
Marlin  Filmare( 製品に同梱 )
Mac,  Windows,  Linux 


参照元記事

2014年1月12日日曜日

Formlabs が Bitcoin 決済に正式対応

ラスベガスで10日まで開催されている今年の Consumer Electronics Show(CES 2014 ) では、3Dプリンティング関連ブースも盛況だ。たとえば 3D Systems が出品している「ChefJet / ChefJet Pro」は、砂糖菓子をさまざまな形に造形可能な「食品用」3Dプリンター。同社によれば食べられるお菓子の出力専用 3Dプリンターは「世界初」だとし、今年後半にも発売開始予定。

一方、光造形法式による高精細な造形を売りにする「Form 1」の製造元 Formlabs は CES 開催初日の7日、3D CAD の知識がなくても 3Dデータ生成可能なプリントソフトPreForm 1.0」の正式版提供と、暗号仮想通貨 Bitcoin 決済への対応を発表した。

PreForm 1.0」は同社製 3Dプリンター「Form 1」向け 3Dデータ プリントソフトで、サポート材の自動生成やオブジェクト完成時にサポート材を素早く切り離せる機能を搭載、obj ファイルにも対応する。CES の同社出展ブース( 31520 )でデモが体験できる。ベータテストの結果、FormLabs チームは、この作成ソフトによって究極の目標、すなわち「クリック1つで 3Dプリントアウト」に一歩近づいたという。

デジタル通貨 Bitcoin による決済については、同社オンラインストアの製品・サービス購入の際に利用可能となる。同社の Sam Jocoby 氏は、Bitcoin 決済に対応することでユーザー層がさらに拡大すると説明する。「われわれは今、デジタルテクノロジー時代の入り口に立っている。それはわれわれの顧客も同じで、Bitcoin のようなデジタル通貨決済の利用も急速に増えている。Form 1 を使って、リアルな Bitcoin をプリントアウトする向きまで出てくるかもしれない」。

2014年1月10日金曜日

患者本人の皮膚から 3Dプリントした「血管」を日本人研究者が開発

日本の佐賀大学と再生医療バイオベンチャーの「サイフューズ バイオメディカル」はこのほど、3Dプリンターで患者本人の皮膚細胞から動脈を造形する技術を共同開発した。同社共同設立者の一人、佐賀大学大学院工学系研究科教授 中山功一氏らの率いる開発チームによると、3Dプリントアウトされた動脈は人工透析や心臓の冠動脈バイパス手術の移植などに使用可能だという。同大学医学部では動物実験の評価中で、臨床試験を経て 4年後の 2018年ごろには一般治療用として実用化したい考えだ。

人工透析では大量の血液を透析機に送り込むため、樹脂製の人工血管が広く使用されているが、場合によっては患者体内での細菌感染を引き起こす恐れがある。今回開発された 3Dプリント技術では使用するのは患者本人の皮膚細胞であるため、自己免疫機能が働きやすくなる。

血管組織を傷つけずに立体再現するために、共同研究チームは金属針( 全長約 10mm、直径約 0.1mm )を 3Dプリンターに無数に取り付け、針の長さと分量を調整することで血管の太さを調節した結果、この 3Dプリント装置によって直径 2-3mm の動脈の立体複製を 10日で作製することに成功したという。

今回開発された新技術はすでに日本、中国、シンガポールで特許取得を済ませており、それ以外の国でも出願中。米国でも同様に血管の複製を作る技術の開発が続けられているが、日本での臨床試験が早い段階で終了すれば、この分野において日本が一歩、先んずる可能性がある。今後、この新技術によって細胞の複製作製が広範囲で開発可能になれば、失った器官や組織の「復元」も、安全かつ効率的に行えるようになるだろう。




2014年1月6日月曜日

三菱商事が金属光造形複合加工機を北米市場に本格投入

日本の商社最大手の三菱商事は今月下旬から、最新鋭の金属加工用複合 3Dプリンターを北米市場に投入する。対象は医療、航空、携帯電話関連産業で、参入初年度は 10社以上への納入を目指す。価格は1台 84万5,946米ドル( 約 9千万円 )。

産業向け 3Dプリンター市場において、これまで米国のみならず欧州や中国メーカーと比べても後塵を拝していた感のある日本が、最新の自国製品を引っさげて本格参入する格好だ。今回、北米市場に本格投入されるのは松浦機械製作所が 2011年から販売している金属光造形複合加工機 LUMEX Avance-25。この複合加工機の最大の特徴は、3Dプリンティングと同様の加法加工と従来の減法加工のハイブリッド機という点で、このような造形機は世界でも唯一だという。製造元によれば、これ1台で金属レーザー焼結積層加工とエンドミルによる高速切削加工をシームレスに実行でき、高コストかつ時間のかかる金型・鋳型製作の大幅な低コスト化・省力化が実現できるとしている。積層造形はイッテルビウム( YB )ファイバーレーザーで行い、これにより非常に複雑なシンメトリー構造の部品(  25 x 25 x 18 cm まで )でも、大量生産現場で要求される高精度での造形が可能になる。

もし、このレーザー焼結積層造形+高速切削加工という「ワンストップ方式」加工機が米国で販路を開拓できれば、金型・鋳型製造業界は新たなテクノロジーの選択肢を得ることになるし、3Dプリンティング=安価なプラスチック樹脂の試作品製作用という概念をも払拭できるかもしれない。

今回の三菱-松浦機械による日本勢の北米市場本格参入を見ると、日本の技術的潜在力を開花させる起爆剤となるのは、高価格帯の産業向け金属加工用 3Dプリンター市場ではないかという気がする。




2014年1月2日木曜日

2014年、デスクトップ 3Dプリンターが克服すべき5つの課題

2013年、「3Dプリンター」という言葉は誰もが耳にし、あるいは友人の家やショッピングモールで現物を見かけたという人もいるかと思う。明けて 2014年は 3Dプリンターメーカー各社にとって、高まってきた一般消費者の認知度を十全に活用し、一般家庭に 3Dプリンター導入を促す一大チャンス到来の年だと言える。ここで、一般消費者にターゲットを絞るプリンターメーカー各社が取り組むべきことを5点、挙げる。

1. シンプルであること

3Dプリンターの最高の形は、とにかくシンプルであることに尽きる。これから 3Dプリンターを買おうとするユーザー層は、温度設定や作動中のプリンターにかかりきりになるのを望まない直感的操作という観点では、現段階では MakerBot 製品が優れているが、それでもまだユーザー自身が直接関わる必要のある部分が多く、完全なメンテナンスフリーというわけではない。とにかくいま必要とされているのは、シンプルでかんたんなソフトウェアと、3Dプリントのテクニカルな問題はすべてマシン側で処理してくれるプリンターだ。

2. 速いこと

操作の複雑さに加え、現在市販中の 3Dプリンターを使用してイライラさせられるのは、3Dオブジェクト造形に時間がかかりすぎることだ。エスプレッソカップひとつのプリントアウトに 45分はかかるし、それ以上の大きさのオブジェクトの出力には数時間はかかる。これでは宝の持ち腐れだ店に買いに走ったほうが手っ取り早い。だが、CEL のRoboxや Radiant Fabrication の「Lionhead Bunnyなどのプリンターは複数のプリントヘッドを装備しており、造形にかかる時間を短縮している。CEL の Robox は高速処理用と微細な仕上げ用のデュアルヘッド仕様となっており、このような「複数ヘッド」搭載は大いに売りになる。

3. 熱溶解積層法( FDM )に代わる新たな造形方式の採用

現在市販されているデスクトップ型 3Dプリンターは、熱溶解積層法( FDM )による造形方式を採用している。たとえば Formlabs の「Form 1」は、FDM の代わりにステレオリソグラフィー( 光造形 )方式を採用している。またスタンフォード大学の博士号取得卒業生らが起業した Full Spectrum Laser ( FSL ) の「Pegasus Touch Laser」も、従来の FDM 方式では困難だった複雑かつ高品質の造形も高速で実行できる。いま一つは粉末焼結積層造形法( SLS )があるが、こちらの方式は一般家庭用としては安全面において難ありかもしれない。とにかく造形に時間のかかる FDM 方式から、高速かつ優れた方式へ移行するのも時間の問題だろう。

4. 幅広い素材への対応

現在、デスクトップ 3Dプリンター用の素材として一般的なのは ABS および PLA 樹脂だが、この状況も材料科学の進歩によってゆっくりだが着実に変化しつつある。業務用の大型機種ではすでに硬度の異なる様々な素材を同時に使用しての造形が可能になっており、たとえばヒンジと靴を同時に製作することもできる。MakerBot も従来の樹脂素材より弾力性を高めた新製品「Flexible Filament ( ↓ 動画参照 )」をリリースしたし、2014年の暮れには、ABS と PLA は数多くの選択肢の1つに過ぎなくなると言っても的外れにはならないだろう。




5. 低価格化

最後に、以上挙げてきた条件すべてを満たす 3Dプリンターが 1,000 米ドル未満で手に入れることができたら、それこそ夢みたいな話だ。現時点でこれら5つの課題を克服したプリンターは1台もない。