2014年3月30日日曜日

患者の生命を救う3Dプリント技術

生後 18か月になる Garrett Peterson ちゃんにとっては、呼吸することじたいが生存を懸けた戦いだ。

Garrett ちゃんは、気管周囲の筋肉が先天的奇形のために呼吸困難になる先天性気管軟化症という難病を抱えて生まれた。生きていくためには人工呼吸器が欠かせないが、ほんの少し衝撃を与えただけで、たちまち呼吸不全に陥る恐れがある。

先天性気管軟化症は、症状によっては理学療法や外科療法で治療可能な場合もあるが、ミシガン大学の医師チームはこの先天異常の治療に、3Dプリント技術の応用を検討している。

今や自動車部品、玩具、ファッションアクセサリーに至るまで、3Dプリントが多種多様な造形物の製作に使用されているが、同大学の医師たちは、3Dプリント技術の潜在力が最大限に発揮されるのは医療分野だと考えている。

同大学生体工学部教授の Scott Hollister 博士は、心臓外科医らと共に3Dプリンターを使用して気管を支えるサポート材を製作した。この人工器具は Garrett ちゃんが自力呼吸可能になるまでの間、彼の脆弱な気管を支える役目を果たす。

「分解吸収されるまで約3年かかります。その時には彼の気管も成長して、正常な構造を持った新しい気管へと再形成されます」と、Garrett ちゃんの治療を担当する Hollister 博士。

同様の3Dプリント技術を援用した執刀例は、 Garrett ちゃんが世界で2番目となる。過去 10年間の3Dプリント技術を用いた治療例には、骨や体内器官、動脈などの再建といった実績があるが、すべが上首尾に終わっているわけではない。成功例としては、英国の外科医チームが3Dプリンターで造形した3次元モデルやプレート、固定具を使用して男性患者の損傷した顔面を「復顔」した 2013年の事例や、ハーヴァード大学の研究者チームが特注3Dプリンターを使用した、皮膚細胞と血管の交錯した人工組織片の作成例などが挙げられる。また今月には、サンディエゴに本拠を置くバイオ プリンティングの Organovo Holdings が、将来的には人工肝臓として機能させることを目的とした人工組織を3Dプリントで作成したことを発表した。究極的には、3Dプリントされた人工臓器を移植用として活用する道も考えられるとしている。

トロント子ども病院のエンジニアたちは、患者の心臓のレプリカを3Dプリンターで作り、執刀医たちに手術方法を決定する際に役立ててもらっている。外科医の1人は、「全てを自分の頭の中でイメージして手術に臨むより、この3次元モデルを見ただけで、患者の心臓が今どんな状態で、自分が今オペで行なっていることはどういうことなのかが手に取るようによくわかる」と語る。これらのレプリカは通常の2D CAT( コンピュータ断層撮影術 )スキャン画像を基に、樹脂や金属、アクリル素材を使用して造形できる。

「3Dプリントという新しい技術を使って、従来では難しかった方法で患者を救うことができる。この事実に我々は大変な興奮を覚えている」と、トロント総合病院の Eric Horlick 博士は言う。

この革命的技術により、外科手術での正確性、および手術のスピードアップが図れる可能性があると医師たちは言う。Garrett ちゃんのような難病患者は無数に存在するが、「プリント」ボタン1つ押すだけで救えるようになるのかもしれない。

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