2014年1月27日月曜日

3Dプリントが変えるアパレルの未来

ランジェリーブランドの Victoria's Secret は毎年恒例のファッションショーで、エンジェル(同社所属のファッションモデル)の1人、Lindsay Ellingson の衣装用に、3Dプリンターで制作されたスノーフレーク柄の翼を採用した。これは 3Dプリンティング業界に起きた最高の出来事だったはずだ。

3Dプリントは航空機部品の試作や補聴器が手軽に作れる道具から、徐々にではあるがライフスタイルのあり方を変えるテクノロジーへと進化しつつある。われわれは今、想像もつかないような方向へ社会を変える変革の入り口に立っている。この変革で新たなビジネスが無数に生まれ、流通や知的財産管理の方法も刷新され、そして起業とカネの流れを一変させるような大きな波が押し寄せてくるだろう。それはいずれはインターネットさえも呑みこむほど巨大なスケールと破壊力を有することになるかもしれない。

世界はマクロ生産-サプライチェーンから、マイクロ生産( 分散型生産 )-サプライチェーンへと変わるだろう。後者は広大な流通ネットワークを必要としない。言わば月産 1,000万個の玩具を製造する工場ではなく、月産1個の玩具を製造する 1,000万の工場だ。そしてそれは遠い海外にあるのではなく、キッチンやガレージなど、3Dプリンターが設置可能な場所ならどこでも生産拠点に変わる。

CNN は足裏矯正用インソール、iPhone ケース、ニンニク絞り器、安全剃刀、ピロシキ型、スプーン置きなど 20品目について、3Dプリントアウトした場合と購入した場合のそれぞれにおけるコストを比較検証した。その結果、20品目すべてを 3Dプリンターで自作すると 25時間を要し、かかったコストは樹脂材料と電気代の総額 18ドルのみで、市販同等品と比べて 294-1,926ドルの節減になったという。そしてこれは2013年の話であり、「ムーアの法則」に従えば、6年後の 2020年には生産に要する時間はわずか1時間、コストも5ドルしかかからないことになる。

Victoria's Secret のショーで使用された翼は Shapeways が制作した同社 CEO で共同創業者の Peter Weijmarshausen 氏はこう述べている。「昨年、弊社は 3Dプリンティングをショーの花道から小売へと広げるためにアパレル産業と協業したが、これはまだ始まりに過ぎない。素材の改良と技術革新、そして大胆な創造的イマジネーションが生まれれば、その時アパレル産業において 3Dプリンティングは爆発的に開花する可能性がある。3Dプリンティングでカスタムメイド、クチュールがすべての人の手に入る」。

1942年、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは「創造的破壊」なる用語を編み出し、自由な市場が進歩を促進させるとした。3Dプリンティングで起きていることは、この「創造的破壊」の最高の例ではないだろうか。ある試算によると、2025年にはコンシューマー向け商品の約10%が 3Dプリントで作られるという。

ファッションブランドも、これまで以上に顧客の心をつかむ努力が必要だ。なにしろ何千何万というデザイナーたちの手によって、従来の生産流通方式を通さずに、米国最大の玩具メーカー Mattel の向こうを張る「工場」が何千何万もできるのだから。インターネットは一夜にしてスーパースターを作ってきた。3Dプリンティング業界版ジャスティン・ビーバーが1人か2人、出てきたっておかしくはない。

インターネットはすでに旧来のビジネスモデルの多くを覆してきた。かつて巨人と呼ばれた小売業者もいまやそうではない。Tower Records しかり、Blockbuster しかり。15年前には思いもよらなかったことだろうが、げんにそういった会社の小売店舗はどんどん姿を消している。

では、この波がファッション界にどんな変革をもたらすだろうか? まず影響を受けるのは、ジュエリーやアクセサリーといった分野だろう。一夜にして業界を一変させることはないものの、相当な変化はあるだろう。Shapeways などの有する技術を利用してグローバルな活動を展開する能力を身につけた世界各地のデザイナーは今や対等の立場で、従来の販路を介さずに直接、市場に売り込める力を持っている。

最近、ニューヨークで才能豊かな 3Dデザイナーの何人かと会って意見を交わした。彼らは 3Dプリンティングの未来について、卓抜な考えを豊富に持っていた。会話を重ねるうち、「4Dプリンティング」というアイディアも出てきた。これはプログラマブル要素を作ることで、プリントアウトした製品が別の用途の製品に自己改変することを可能にするというものだ。たとえばブレスレットに、食事の時はフォークになり、用が済んだらまた元のブレスレットになる、というプログラムを実装する。あるいは Victoria's Secret の発想をさらに進化させ、ジーンズが女性用下着になり、また元のジーンズに戻るプログラムを埋め込む。

これらはいずれも実現するにはまだまだ先は長い。その可能性についてあれこれ思いを巡らせるのは楽しいが、この問題については期待に胸弾む一方、立ち止まって考えるべき事柄でもある。これまでにはなかったような、素晴らしい何かが起こりつつある。そして、3Dプリントによる変革が今後のわれわれの生活に及ぼす影響についての議論は、オープンソースから生まれるものなのだ。

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