2014年6月1日日曜日

世界のごみ問題と貧困問題を解決するか? >「Recyclebot」の挑戦

米国 / インド発現在、市販されている3Dプリンターはプラスチック樹脂素材のフィラメントを溶かして造形するタイプ( 熱溶解積層造形法、FDM )が大半を占めている。3Dプリンター需要がこのまま拡大を続ければ、米国だけで年間 3,300万トン以上ものプラスチック廃棄物もさらに増大する事態になる。これら廃棄プラスチックのうち、再生利用されるのは全体のわずか 6.5%にとどまる。また、世界の海を漂うプラスチックごみは1億トンに上ると推計され、自然分解には 500年から1千年はかかるという。

拡大を続ける3Dプリント産業にとって、ビジネスチャンスがまさにこのプラスチックごみの中に埋もれている。再生プラスチックからフィラメントを製造することができれば新たな雇用とマーケットを創出でき、さらには貧困の連鎖を打破することも可能になるかもしれない。

市販の3Dプリンター用樹脂素材は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン( ABS )とポリ乳酸( PLA )の2種類が主流だ。ABS は石油から作られ、融点が高く、有害な微粒子を発生させる。PLA の方はトウモロコシなど自然由来素材から合成可能なバイオ樹脂。生分解性で、再利用すれば自然環境に対する負荷は低い。

だが、ほとんど見過ごされているのが、3Dプリンター用フィラメント素材として高密度ポリエチレン樹脂( HDPE )も有効だ、ということだ。現在、海洋を漂流しているプラスチックのほとんどが HDPE であり、埋め立て処理で増え続けているのもこのプラスチックなのだ。

ミシガン工科大学の Joshua Pearce 氏率いる研究者チームは数年来、自然環境にやさしいオープンソース3Dプリンター開発に従事してきた。昨年、同氏チームは自己複製可能な3Dプリンター、RepRap の1モデルとして「Recyclebot」を開発した。プラスチックごみからフィラメントを生成、それをエクストルーダーに供給するプリンターで、最新試作機では組み立て時間がそれまでの3分の1に短縮され、部材費も 20% 減少の 500米ドル足らずで済むという。もちろんオープンソースとして設計図はすべて公開されているから、各自このプリンターをベースにカスタマイズも自由にできる。


「プラスチックごみを再生利用すれば環境負荷も少なくできる」と、Pearce 氏。「ただ、再生樹脂フィラメント利用の主たる理由はコストだ。市販フィラメントは kg当たりコストが 最低でも 35ドルはするが、Recyclebot なら kg当たり電気代分の 10セントしかかからない」。


Pearce 氏らの開発したプリンターでは、自動車用フロントワイパーを動作させるモーターを使い、細断されたプラスチック容器類を加熱管に押し込んで溶解し、スパゲッティ状に成形したフィラメントをノズルに供給する仕組み。これらの装置は自作の他、Filabot FilaFab といったメーカー製品を購入して利用する方法もある。


現在、再生可能廃棄物を収集して暮らす貧困層は全世界に約 1,500万人いる。この問題解決のため設立された組織「Ethical Filament Foundation」では、3Dプリンター用フィラメント業界に対し、フェアトレード規格および認証プロセスを策定している。


インドのプネーに本拠を置く世界初のフェアトレード フィラメントベンダーの Protoprint は、大量に廃棄されている非分解性の HDPE をリサイクルしてフィラメントを製造している。インドでは約 200万人がスクラップ業者に kg当たりわずか 0.15ドルで再生可能なプラスチックごみを売り、日給1ドルにも満たない生活を送る人が多い。


「彼らはインドにおけるリサイクル産業の土台を成す存在なのに、社会からは完全に無視されている。それが問題」と、同社 CEO の Sidhant Pai 氏は指摘する。同氏はマサチューセッツ工科大学環境工学科の出身だ。


Pai 氏は同社が全額出資する協同組合組織 SWaCH を立ち上げ、ごみ埋め立て地に再生フィラメント試験生産施設を設置、今夏にも事業化させたい考え。プラスチックごみを3Dプリンター用フィラメント製造に振り向ければ、その付加価値によりごみ選別と収集に従事する貧困層は現在の 15倍の kg当たり 2.25ドルは稼げると同氏は言う。


Protoprint は現在、インド国内の高等教育機関に低コストの再生素材フィラメントを提供し、3Dプリンティング導入拡大を目指している


同社の再生フィラメント製品はバルク単位でも、FDM 方式の3Dプリンター毎の購入のいずれも可能。再生フィラメント使用可能なプリンターの販売も行っている。


回収されたプラスチックを「通貨」に変身させる試みも進められている。Plastic Bank では再生利用されるプラスチックを3Dプリント素材や家庭用品へと交換可能にする。同社は昨年、Indiegogo 上においても出資者を募り、目標額を達成することに成功している。近いうちにペルーの首都リマに最初のセンターを開設する計画だ。同社は「ソーシャル プラスチック」と銘打った運動も展開中で、業界各社に再生プラスチック使用を促す運動に賛同するよう求めている。


「我々のような組織ならば、ただプラスチックごみを増やし続けるのではなくそのプラスチックを有効にリサイクルして、持続可能な環境にやさしい未来に向けて、3Dプリント産業を成長させることができるかもしれない」と Pai 氏。「たとえこれが大海の一滴に過ぎない試みだとしても、正しい方向に進む1歩だと信じている」。


参照元記事1.
参照元記事2.